最近、「牛乳はからだに悪い」という情報が出回っています。
栄養や健康関連に興味がある人は、おそらく周知のことと思います。
そもそも、牛乳がからだに悪いと言われるようになった所以は、イギリス人ジェーン・ブラント博士が乳がんと牛乳の関連性を自身の経験をもとに執筆した書籍「乳がんと牛乳~がん細胞はなぜ消えたのか」を皮切りに、医師や栄養研究に携わる人たちをはじめ、世界中で論争を巻き起こしたことによります。
牛乳否定派の意見
牛乳は本来、仔牛が急速に成長するために必要とされるもの
当然ながら産まれたばかりの仔牛は、母牛の乳を飲んで成長します。免疫物質がふんだんに含まれた母牛の初乳を飲むことで、細菌やウィルスから身を守ります。初乳とは、出産したばかりの母牛の乳。その後の乳とは成分が異なるそうです。
初乳というのは出産したばかりの母牛の乳で、その後の乳とは成分が異なり仔牛に免疫力を与える成分を含んだミルクです。
出典:雪印メグミルク
仔牛でさえ、生後2ヶ月で離乳する
仔牛は生後2ヶ月で離乳。人間と牛とでは成長スピードも異なりますが、成分の異なるという初乳後の乳でさえ必要としなくなります。
牛でさえ必要のないものは人間も必要ないのでは?という論理です。
乳製品と動物性たんぱく質の一部の摂取が乳がんの危険因子
牛乳の製造過程でホルモン剤が多量に使用されていることが、乳がんの危険要因になっている、という論理。
イギリスのCANCER RESEARCH UKによると、牛乳や乳製品を製造する上で使われる牛ソマトトロピンというホルモン剤の使用はイギリスやヨーロッパ各国の酪農家は規制されており、アメリカをはじめとする輸入肉に関しても、牛ソマトトロピンを使用したものは輸入禁止措置をとっているとのこと。
牛ソマトトロピンというホルモン剤は牛乳や肉を短時間で大量に製造するために使われているものです。
ちなみに日本でも、牛に成長ホルモンも抗生物質の投与も禁止し、厳しい基準を設けています。
乳製品の摂取をやめたら、乳がんが消えた
「乳がんと牛乳」の著者、ジェイン・ブラント博士が試行錯誤の中で発見したのが乳製品とがんとの関係。それまで食べていたヨーグルトやチーズもやめたら、がん細胞が徐々に小さくなり最後には消失した、ということです。
しかしながら、CANCER RESEARCH UKでは牛乳や乳製品はカルシウムやプロテイン摂取に非常に効果的でバランスのとれた食品である、と名言しています。
Milk and dairy are good sources of calcium and protein which are needed as part of a healthy, balanced diet. Calcium is important for teeth and bone health.
また、牛乳や乳製品とがんとの関連性は、明確な結論が出ていないこと、乳製品が大腸がんのリスクを減らすという科学的根拠があることなどから、それらとがんとの関連性は現時点ではなんの根拠もない、としています。
Studies looking into the link between cancer and dairy products have not given clear results. There is evidence that dairy products could reduce the risk of bowel cancer, but we cannot say for sure that this is the case. There is no strong evidence linking dairy products to any other types of cancer.
2. アメリカではどうか
アメリカのComprehensive Reviews in Food Science and Food Safetyによると、牛乳や乳製品はからだに良いという説もあれば有害説もあるけれど、がんの発生リスクを高める根拠は決定的なものではない、としています。
むしろ、乳製品の健康上の利点は、未だ証明されていないリスクを大きく上回るもので、骨や歯の健康維持、骨粗鬆症、心血管疾患の危険因子、高血圧症、2型糖尿病、メタリックシンドローム、いくつかのがんを予防するために不可欠、とさえ言っています。
Overall, the proven health benefits of dairy foods greatly outweigh the unproven harm. Dairy foods should be encouraged as part of a varied and nutritious diet as they are essential to maintain good bone and dental health, to prevent osteoporosis, major cardiovascular disease risk factors, hypertension, type-2 diabetes, metabolic syndromes, as well as some cancers.
認知症予防食生活指導員、女子栄養大学食生活指導士としての私見
結局のところ、現時点では牛乳や乳製品とのがんとの関連性に明確なものはありません。
健康に関しては、常に冷静にジャッジする自分の視点が必要と感じています。なぜなら健康関連の情報は日々変化し、医師でさえ数年前に言っていたことを覆すものなのですから。
自分の口に入れるものですから、それぞれが厳しい目を持って対処しなければいけないとは思いますが、科学的根拠のはっきりしていない情報に踊らされて危険視することも、あまり良いものではないと思っています。
カルシウムを必要とする高齢者に牛乳は必要です
高齢になると、食が細くなります。食べたいのに食べられない、という状況になるのです。
運動量も減り、筋もどんどん衰えていきます。
そんな高齢者にとって、とても大切な栄養素が「カルシウム」と「たんぱく質」です。
男女問わず、高齢者には転倒による骨粗鬆症のリスクは高くなります。くしゃみしただけで骨折する人さえいます。骨粗鬆症を予防するノウハウはまた別で解説しますが、カルシウムが予防になることは言うまでもありません。
牛乳以外の食品じゃだめなの?
他にもカルシウムを含む食品は、小魚、海藻などありますが、牛乳の代わりにはなりません。
なぜなら、他の食品は同時に塩分を摂取してしまい高血圧のリスクがあると同時に、大量には食べられないからです。
牛乳は、食欲がない高齢者や病気の方でも飲みやすく、また体内へのカルシウム吸収率は他の食品と比べてダントツです。
カルシウム吸収率
- 牛乳——-40~53% (カゼインカルシウム)
- 小魚——–33~38% (リン酸カルシウム)
- 野菜——–18~19% (蓚酸カルシウム)
わたし個人でいえば、83歳になる高齢の父親には、リスクを検討した上で、やはりメリットの方がリスクをはるかに上回ると感じているので摂るようにすすめています。
また、牛乳だけではなく、ヨーグルトやチーズなどの発酵食品、グラタンやパスタなどの調理にも使用しています。
高齢の父にとって、未解明であるがんになるリスクよりも骨粗鬆症や転倒による骨折のリスクの方がずっと大きいからです。
骨折してしまうと数週間は寝たきり状態になり、そのことが認知症の誘発、筋力の衰えによる歩行不安、さらなる転倒リスクのほうがずっと大きいのです。
カルシウムとたんぱく質を同時に簡単にとれる食品として、牛乳はとても優秀な食品です。
やっぱり牛乳を飲むのは怖い!という人は
個人の考え方によるので、飲まないという選択肢も当然あります。
世界中で論じられているのは牛乳ではなく牛乳を含む乳製品です。
牛乳だけでなく、チーズやヨーグルトもそうです。それらを全部やめて、初めてこの未解明なリスクから逃れることができます。
ただその場合、カルシウムやたんぱく質の摂取に関して、十分な知識を身につけましょう。乳製品に代わる食品をどう食べるか、どのくらいの量を必要か、ということを知る必要があります。
高齢になって「骨密度が低い」とならないように、積極的に海藻や小骨の魚などを食べるようにしましょう。